『DX白書 2023』が発行されました
IPA(情報処理推進機構)が2021年から発行している『DX白書』の第2弾で、日本企業のDXの現状を知るための情報がつまっています
一方で次のような感想を抱く人も多いのではないでしょうか?
- そもそも読んでいる時間がない
- 読んだけど意味が分からなかった
- お役所仕事のレポートに意味があるのか?
確かに今回の『DX白書2023』は377ページもある大作なうえ、内容のほとんどが難しい調査報告か、事例の紹介に割かれていて、正直なところ面白味はありません
それでも日本企業のDXがなぜ進まないか?をIPAなりに深く分析しています
何ごともスタートは現在地を知るところから!
ということで、
- 忙しくて読むひまがない、
- 読んだけど意味が分からない
という方に向けて『DX白書 2023』のポイントを私が分かりやすく要約します
日本のDXの現在地を知って、失敗しないためにコツを一緒に探しましょう!
DX白書とは?
世界と日本のDXの現状を調査したり、アメリカ企業と比較して日本企業のDXが遅れている原因を分析してまとめたペーパーのことです
経済産業省の所管法人であるIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が発行しています
IPAと経済産業省の結びつきは強く、実質的に国が発行しているレポートと考えて問題ないでしょう
読んでみる価値は「ある」!
インターネットで『DX白書』の感想を検索してみると、ネガティブな意見ばかりがヒットします
- 分かりやすさを無視したお役所仕事
- 「アメリカすごい・日本はダメ」の羅列
- どうすればDXは成功するのか?の解決策がない
- 文書がつまらない、飽きる。
など、厳しい意見ばかり…
じゃあ、読む意味はないの?
いいえ、わたしはそうは思いません
確かに、アンケート結果と解説を並べただけの”面白みに欠ける”レポートなのは間違いないのですが、DX人材を目指すなら知っておくべき知識が詰まっています
- 日本企業のDXの現状は?
- なぜDXは進まないのか?
- 何に気を付ければDXは失敗しないの?
『DX白書 2023』には、こういった疑問に答えるための良質なヒントが詰まっています
でも、300ページも読めない…
安心してください
この記事では「DX白書2023」を10個のポイントにまとめました
このポイントを読むだけでも、DXレポートの内容が分かりますよ!
読む前に知っておきたいキーワード
白書の内容を正しく理解しようとすると、最低限知っておきたいキーワードがいくつか登場します
もともと『DX白書』はITの知識がない人でも理解できるよう、専門用語はあまり使わないように工夫されています
それでも時々は「これってどういう意味?」と感じてしまう表現が登場します
- DXとデジタイゼーションの違い
- AI(人工知能)の仕組み
- レガシーシステムとは?
- アジャイルってどういう意味?
キーワードは、あらかじめ押さえておきましょう
別の記事にて「初心者が知っておきたいDX用語21選」を紹介しています
専門用語に自信のない方は、ぜひチェックして用語をクリアしてください!
【参考記事】会議で置き去りにされないためのDX用語21選
DX白書から見えてくる10のポイント
ここから『DX白書 2023』のポイントを見ていきましょう
300ページ以上もあるレポートの内容を、すべてをカバーすることはできませんが「最低限これだけ知っておきたい10ポイント」にまとめてみました
タイトルを読むだけもポイントがつかめますよ!
- 大企業ほど先行するDX
- 業界ごとに取り組み状況に大きな差
- DX先進地は東京|地方はこれから
- 成果を実感できない日本企業
- 経営者の理解度はアメリカの半分
- 危機意識が薄い従業員
- 新技術に対する関心の低さ
- 人材配置にも難あり
- 求める人物像は明確に!
- レガシーシステムは起爆剤になれる
早速見てみましょう!
パート1│俯瞰調査
まずは「パート1:俯瞰調査」から3つのポイントを解説します
日本企業のDXがいまどのくらい進んでいるのか、一緒に見てみましょう!
ポイント1:大企業ほど先行するDX
1つめのポイントは、売上が大きく、従業員数が多い会社ほどDXへの取り組みが進んでいることです
IPAの調査では売上高1,000億円を超える企業の半数が「全社的にDXに取り組んでいる」と回答した一方で、売上高50億円未満の企業で同じ回答をしたのは11.4%しかありません
【Point】企業規模が大きい会社ほどDXは進んでいる!
白書ではこの理由を、DX推進に必要な「3つの資源」が大企業ほど揃っているからと分析しています
【DXに必要な3つの資源】
- IT系の人材
- 業務改善のノウハウ
- 投資力(予算の投入)
もちろんすべての大企業がDX推進でリードしているわけではありません
その詳細を次の章で紹介します!
ポイント2.業界ごとに取り組み状況に大きな差あり
2つ目のポイントは、DXの進捗には業界によってかなり差があるということです
情報・サービズ業では広くDXが進む一方で、教育や建設、医療福祉などの業界ではDXへの取り組みが遅れていることが明らかになりました
IPAはDXが進むポイントを「3つ」挙げて分析しています
1. 産業とデジタルの関係
ハード・ソフトを問わずデジタルツールを”商品”として扱う業界はDXの進捗も早い
2. 利益率
農林水産業や建設業などは業界として利益率が低く、稼げていない=IT投資に回せるお金が少ないという“負のスパイラル”に陥る会社が多い
3. デジタル化の歴史
海外から強力な黒船が上陸してきたなどの外部要因によって、業界全体が強制的にデジタルシフトしたケースもある
遅れている業界のDXはどう進めればいいの?
『DX白書 2023』ではすべての業界関係者が参考にできるよう、産業別にDXのベストプラクティス(お手本になる事例)を整理して公表しています
ポイント3|DX先進地は東京
地域別でみると「DXに取り組めている」と回答した企業が最も多かった地域は「東京23区」でした
最近は「地方からDXの波が起きている」ことを強調するニュースもたくさん見かけますが、それは一部のケースで実態は逆でしたね
東京23区の企業ほどDXが進む理由としては次の2つです
- そもそもIT系人材が多い
- 先進的企業が近くにある
ただし、地方都市でもまったくDX事例が存在しないワケではありません
デジタル技術を使った変革は各地で起きています
- 北海道:農業機械の予約管理をデジタル化
- 甲信越地域:ドローンを使った森林調査など
【Point】
『DX白書 2023』でも地方の特色を踏まえたDX事例が掲載されていますよ
俯瞰調査のまとめ
DX白書では、ここまで紹介した俯瞰調査のポイントを次のようにまとめています
- 大企業の方がDXへの取り組みが進んでいるが、中小企業でも工夫しながらDXを推進する事例もたくさんある
- 地方から社会の変革を目指すDX事例も多数掲載されている、このDX白書を参考にDXの一層の広がりが期待したい
ありきたりなまとめだな…
と感じるかもしれませんね、わたしも同感です
『DX白書』をここまで読み進めた皆さんは「現状は分かった。ではどうすれば?」を知りたいはずですが、残念ながら『DX白書 2023』ではその記述が足りていません。
次回の白書でぜひ直してほしいところですね
「ではどうすれば?」の部分は、ポイント9・10でわたしの見解を交えて解説します
パート2│日米比較で見る違い
DX白書の特徴は、日本企業のDXの現状を知るためにアメリカ企業との比較を掲載していることです
ここからはアンケートで見えてきた日本企業VSアメリカ企業の「差」について、5つのポイントから解説します
ポイント4.成果を実感できない日本企業
まずは日本企業とアメリカ企業のDXへの取り組み状況を比較します
下の図を見てください
「全社戦略に基づいてDXを推進している」と回答した企業の割合は、アメリカが68.1%に対して日本は54.2%となりました
日本企業のDXへの取り組みはアメリカと比較すると10%以上負けていますが、2021年と比べると伸びています
来年はもっと差が縮まっていることに期待ですね!
深刻なのは「DXの成果が出ている」と実感している企業の割合です
日本が58%に対してアメリカは89%となり、DXに取り組んでいるけれど成果が出ていない日本企業が多いことが浮き彫りになりました
原因はどこにあるのだろう?
次の章で深堀りします
ポイント5.経営者の理解度は悲惨
DXでなかなか成果が上がらない大きな理由が経営層の「無理解」です
上の調査結果が示すように、日本企業の経営層はITに対する理解が驚くほど足りません
紙とハンコ、長時間労働、年功序列な昭和スタイルにどっぷりつかってしまった日本の経営者は、デジタルを使ってスマートに業務を効率化することを「邪道」とでも考えているのでしょうか?
DXは全社横断的な取り組みのため、トップの「鶴の一声」が大きなきっかけになって進むことも多くあります
【Point】
経営層の役割はITやデジタルを成長の”一丁目一番地”と位置づけ、DXを推進できる人材と予算を確保することです
それができなければ、アメリカとの差は開いていくばかりでしょう
ポイント6.危機意識が薄い社員たち
日本企業のDXが進まない原因は経営層ばかりではありません
従業員の危機意識についても、日米で大きな違いがあるようです
白書によると「日本企業の従業員たちは、リスクに対する感度が低い」そんな結果が出ています
Q:会社が倒産してしまいかねないほどの”リスク”といえば、どんなものを思い浮かべますか?
- 技術の発展(による既存技術の衰退)
- SDGsによるエネルギー政策の大転換
- パンデミック(感染症の大流行)
- プライバシー規制
- 地政学リスク
- ディスラプター(※強力なベンチャー企業)の出現 など
これらリスクをきちんと対応しているか?について調査したところ、どの項目でも日本企業はアメリカの半分以下という残念な結果になりました
地政学的リスクでいえば6分の1以下です!
ウクライナ危機が発生したとき「このままではうちの会社ヤバい!」と本気で感じた方は少なかったのではないしょうか?
【Point】
危機感無くして成長なし!リスクに備える有効な手段が「デジタル化の推進」です
のんびりしていたら会社が無くなっていた、なんてこともあり得ますよ
ポイント7.新技術に対する関心の低さ
最新の技術をビジネスに取り入れるスピードにも、日米には大きな差があります
例えばAI(人工知能)を全社的または部分的に活用している企業は、アメリカでは40%に対し日本では22%にすぎません
AIはこれまで人の脳では追いつかなかった複雑な処理を一瞬で片づけてくれるすごい技術です
それなのに日本企業の足取りは重いままです
近年DXに関連で話題になっている様々な技術(Fintech・メタバース(VR)・ブロックチェーン技術)についても同じです
新技術をなかなか使いこなせない…
この記事を書いている段階(23年3月)で話題になっているChatGPTも恐らくすぐに使い始めるアメリカ企業と、とりあえず様子を見る日本企業に“2極化”するのではと予想しています
【Point】
新しい技術への”感度の低さ”も大きな課題
ポイント8.人材育成にも難あり?
DX人材はどうやって確保するの?
日米ともにDX人材を確保する主な手段は「社内での育成」でした
ただし、アメリカは日本よりも少しだけ、
- 個人事業主との契約や
- リファラル採用(従業員の友人や知人の紹介)
の割合が高く、あらゆるツールを使って人材を確保しているのが分かります
また、DX人材を育成する方法も日米で異なるようです
育成手段にOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を活用しているアメリカは6割以上。
つまり「とりあえずやってみなはれ」スタイルで従業員に経験をつませるのがアメリカ流です
一方で日本企業の育成方法も、1位は「社内研修(OJT)」ですが実施割合はアメリカの半分以下です
【Point】
育成方法の違いが、DXの進み具合に直結していると考えてよいでしょう
もしあなたが組織のDX推進をリードする立場ならば、部下にはぜひ「やってみなはれ!」精神でリードしてあげてください
パート3│DX推進のための2つのヒント
ポイント4からポイント8にかけて、日本企業とアメリカ企業のDXの「差」を様々な側面から紹介してきました
日本ってここまでダメダメだったのか…
と絶望的な気持ちになったかもしれません
ここからは、どうすれば日本のDXは進むのか?についてDX白書から読み取れる2つのヒントを挙げます
それは、
「失敗しないDX」のヒントを一緒に探しましょう!
ポイント9 求める人材像を明確にすべし!
日本企業のDXを進めるヒント、ひとつ目は「求めるIT人材像を明確にすること」です
今回の調査ではIT系の人材が「大幅に不足している」または「やや不足している」と答えた会社は8割を超えました
一方で、約4割の企業が「求める人材の人物像を設定していないし、社内への周知もしていない」と回答しています
つまり、人が足りないと悩む以前に、どんな人が欲しいかを分かっていない状態です
そりゃ人を増やそうと思っても増やせないよ…
ちなみに採用だけでなく人事評価の基準もありません(IT人材に対する人事評価の基準を策定している企業は12%程度・基準なしは79%)
【DX推進のPoint①】
人が足りない、足りないと悩む前に「どんな人が欲しいか?」を考えるべきです
ポイント10 厄介者|レガシーシステム
日本企業がDXを進められない最大の障害と言われているのが「レガシーシステム」です
システムの半分以上がレガシーシステムという日本企業の割合は40%を超えています
DX白書では上述のアンケート結果しか触れていませんが、次の章では私の考察を加えたいと思います
レガシーシステムは成長の起爆剤
DX失敗の“戦犯”のように扱われるレガシーシステムですが、反対にDX前進させる起爆剤になり得るかもしれないと私は感じています
いままで古いシステムの更新に踏み切れなかった日本企業も、いよいよ腹を決めざるを得ないときを迎えているからです
- 急速なデジタルシフト
- グローバル化
- スタートアップ企業の躍進
- 人口減少と高齢化
どの業界でもビジネス環境は激変しています
いまこそ、ピンチをチャンスに変えるタイミングだと私は感じているのです
この機会に今までデジタルへの投資に腰が重かった日本企業が、一気にレガシーシステムの刷新に乗り出す傾向が顕著になっています
【DX推進のPoint②】
レガシーシステムの存在は確かにDXの壁です
一方で、皆が危機感を感じ始めたときこそDX取り組みのチャンス!
ピンチをチャンスに変えましょう!
まとめ│ピンチがチャンスに変わる考え方
この記事では『DX白書 2023』のポイントを10個に要約しました
とくに後半部分は、日本のDXがいかに遅れているか?を浮き彫りにして、わたしたちに危機感を抱かせる内容になっていたと思います
日本はもう世界から取り残されるのか…
悲観的になる必要はありません
わたしが強調したいのは「弱点は上手く克服すれば強みになる」ということです
日本にはDXを劇的に前進させる潜在力があります
確かにこのまま古いシステム・古い考えに固執していれば、世界との差は広まっていくばかりでしょう
しかし、DXを経営課題のトップに据えて本気で取り組めば、スタートが遅れた分、先駆者たちが悩んだ先例をたくさん見ることができます
- どこに失敗してきたか
- どうすれば上手くいったのか
- このシステムの見えない弱点はどこだったか
- 似たような課題をどう対処したか
先例がたくさんある分、何も情報がないままスタートするよりも遥かに成功が近づきますよ
ピンチはチャンスです!
【Point】“いま”取り組めば、世界で最新のDXを実現できる!
デジタルの力で皆さんの日常がもっと豊かになれば嬉しいです
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。